※ この題材は、「改訂中学校学習指導要領の展開 美術科編 遠藤友麗編者」に掲載された。
浮世絵などの版画作品やその製作技術は、世界が認める日本の優れた文化の一つである。その中でも、私たちにもなじみが深いものとして歌川広重や葛飾北斎の浮世絵がある。ここで取り上げる北斎の木版画の作品には風景画も多く、そこに登場する人物には動きがあり、ときにはユーモラスにその時代の風情を生き生きと伝えている。
葛飾北斎「富岳三十六景」『駿河町』
題材の特徴
その1 「空想美術館」との出会い ──
この題材を思いついたのは、平成10年である。その当時は、日本の伝統文化の見直し、鑑賞授業の充実、映像メディア表現の新設などが中心課題であった。
それらを網羅した題材が開発できないかと考えていた。丁度そのとき、「森村泰昌『空想美術館』絵画になった私」のポスターが目に入った。森村氏が、有名な絵画作品に登場する人物に扮してポートレートするというものであった。(氏は、それを発展させたディジタル動画として、平成18年に名古屋県立美術館で発表している。)
子どもの頃、某お茶漬けのおまけに歌川広重の「東海道五十三次」が付いていた。名刺大ぐらいの小さなものだったが、細密に描かれたその巧みな線の使い方に惹かれた。また、葛飾北斎の「富岳三十六景」に描かれた様々な富士山の姿に魅せられ、いつか行ってみたいと子ども心に思ったものである。確か、何枚か集めて送ると、1セットもらえるというので、集めていたことを覚えている。
後になって、この日本の浮世絵は、西洋の印象派の画家たちに大きな影響を与えたことを知った。当時は、西洋文化を手本にするあまり、日本の素晴らしい伝統文化が忘れられかけた。そこで、浮世絵を鑑賞の対象にすることにした。
その2 最初の勘違い ────────
葛飾北斎「富岳三十六景」の「立川」の左下の人物に入れ替わろうと作務衣に着替えた。自分で撮影するのは難しいので、甥に手伝ってもらいディジタルカメラで撮影した。 葛飾北斎「富岳三十六景」『立川』 私は、木材を受け止めるポーズを取った。しかし、よく見ると下の人物は上の職人に木材を放り上げている。上を見上げているので、頭の向きもおかしいことになる。最初の勘違いである。 原画 作務衣の私
その3 二つ目の失敗から得られたもの ────────────────────
「神奈川沖浪裏」は、それを見たゴッホが手紙で賞賛し、ドビュッシーが交響詩「海」を作曲した等(など)の逸話が残る名画である。今度は、波に揺られる船に乗り込むことにした。 | ||
「富岳三十六景」『神奈川沖浪裏』 | 作務衣の私 | |
またもや、見当違いをしてしまったようだ。このままだと船から落ちてしまう。船の横縁にへばり付いていたのである。 私は、昔から絵を見るよりも描く方が好きだった。今回の経験からも、いかに自分がいい加減にしか絵を見ていないかが分かった。 しかし、それは私だけだろうか。 そう考えた私は、小中学校の教員、大学生に協力してもらい、作品の登場人物と「入れ替わる」場合と、いないところへ「付け加わる」場合の2つについて検証した。 「付け加わる」は、元の作品を作り替えようとする意識が働き、パロディ的な表現になることが分かった。そこで鑑賞を目的とした題材には、「入れ替わる」が、適していると考えたのである。 この研究は、平成10年度に神戸で開催された全国教育研究所連盟研究大会で発表することになり、また朝日新聞の全国版に取り上げられた。 何校かの小学校へ研修のために出かけたり、同じような研究をしておられた県内の中学校の先生と共同研究を行うことにもなっただいざいである。 |
題材3 「名画に飛び込もう」 -参加体験型の作品鑑賞- |
美術Ⅲ | 映像メディア表現 | 3年 | 6時間 |